この記事では、モラトリアム(moratorium)という心理学用語について、紹介していきます。
社会人になる前の青年期にあたる人々は、社会的な義務や責任が猶予されています。
青年期のこうした状態のことを心理学ではモラトリアム(moratorium)=猶予期間と呼びます。
この記事では、モラトリアムについて詳しく説明していきます。
モラトリアム(moratorium)とは?
モラトリアムの辞典での説明
まず、心理学辞典での説明を見ていきます。
有斐閣現代心理学辞典では、モラトリアムについて、
青年期が、心理社会的に成人化するための責任猶予期間である性質を持っていることを示し、またその時期を説明するために、エリクソンによって用いられた概念である
と説明されています。
辞典の説明にもあるように、ライフサイクル論やアイデンティティの理論で有名なエリック・エリクソンがモラトリアムという単語を心理学の世界において、用いました。
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モラトリアム(moratorium)の解説
モラトリアムとは、「猶予」のこと
まず、モラトリアム(moratorium)とは、「(一時的な)禁止」や「支払い猶予期間」などを表す英語です。
何か一時的な事情等により、支払いを猶予したり、何かを停止したりするような意味で使われます。
心理学においては「青年期」を表す
一般的に、一人前の社会人になるには、知識や能力を身に着ける期間が必要です。
そのため、青年期は、社会的な義務や責任が猶予されています。
このようなことから、エリック・エリクソンが心理学において、青年期のこのような状態のことをモラトリアム(moratorium)と呼びました。
- モラトリアムは「猶予」を表す言葉
- 心理学においては、青年期が一人前の社会人になるまでの猶予期間を指す。
現代は、モラトリアム期間が長くなる傾向にある
近代以前は、子どもは大人の手伝いができるようになると大人の仲間入りをしていました。
そのため、モラトリアム期間は基本的にありませんでした。
近代になり、教育制度が整うと、知識や能力を身に着ける期間として、ある程度の年齢までは保護されるべきという発想が生まれました。
さらに、現代においては、すぐに正社員として働かなかったりと、義務教育終了後の生き方も多様になり、モラトリアム期間を長く取ることができます。
モラトリアム期間が長い=じっくりアイデンティティを確立できる
青年期は、社会人になる準備期間であるとともに、自分とはどういう存在であるか(アイデンティティ)を見つける期間でもあります。
自我同一性と訳される。
「自分は自分で他の誰でもない」という不変性と「過去も今日も未来もずっと自分であり続ける自分」という連続性の感覚を自他共に持っていること。
生き方が多様になったり、自分を見つける期間であるモラトリアム期間が長くなった現代では、じっくりアイデンティティを確立することができます。
一方で、生き方が多様であることからアイデンティティを確立しにくい時代でもあると言えます。
アイデンティティ・ステータス理論
臨床発達心理学者のマーシャ(Marcia.J.E)は、アイデンティティの状態を①アイデンティティ確立②アイデンティティ拡散③モラトリアム④早期完了の4つに分類しました。
マーシャは、モラトリアムの期間に生きている青年の中でも人生に対する意思決定を延期し模索している青年群をモラトリアムと呼びました。
まとめ
- モラトリアム(moratorium)は「猶予」を表す
- 心理学においては、青年が社会人になる前の期間を指す
- モラトリアムは、アイデンティティ(自分がどういった存在であるか)を確立する期間でもある。
モラトリアムの期間にある青年期のことをマージナルマン(marginal man)と呼びます。
参考文献
1)「モラトリアム」. 大野久. 『有斐閣現代心理学辞典』. 初版. 有斐閣, 2021, p.754
齊藤勇監修 田中正人著. 『図解 心理学用語大全 人物と用語でたどる心の学問』. 誠文堂新光社
エリック・エリクソン. 『アイデンティティとライフサイクル』